和太鼓奏者・御木裕樹 コラム

-其の伍- 礼儀・挨拶・声かけ

「おはようございます!」
芸事の世界は夕方でも夜でも夜中でも、いつでもこの挨拶で始まる。

芸能業界・音楽業界では、その日初めて会う時には、それが夜中であったとしても、いつでも笑顔で元気な声で「おはようございます!」、「宜しくお願い致します!」 という挨拶から仕事が始まる。
そして人だけではなく心構えとして大切な事は、 コンサートホールやスタジオなどに挨拶する事はもちろん、車、楽器など全ての道具に挨拶をする事から一日が始まる。
これがまず演奏以前に一番大事な事であり、人として当然の事である。


この世界(業界)に入ると、まず挨拶・礼儀・作法を覚える事から始まる。
そして、しっかりと実行・実戦していかなくてはいけない。
楽屋の上座・下座を知らない事や、敬語を知らない事などは、全て恥ずかしい事であり、プロの世界では通用しない。
またプロに限らずアマチュアでも、趣味で芸事をやっていて舞台に立つような人や、プロの現場にスタッフやローディーとして関わるような人が「こんばんは〜!」何て言って楽屋入りしてきたら、これもまた恥をかく事になる。
それに最低限の“舞台用語”(業界用語)を知っとく事も、礼儀だ。
「上手(カミテ)ってどっちですか?」、「板付きってなんですか?」では話にならない。

いつも使っている、「舞台用語・業界用語」を挙げてみよう。
小屋、ナグリ、本番、前ノリ、旅、トランポ、入り、オシ、マキ、板、板付き、キュー、後帰り、箱馬、一ベル、本ベル、メンラー、PA、バラシ、MC、ころがし、音出し、キャパ、サウンドチェック、横当て、サス、ピン、ホリ、とっぱらい、立ち位置、バミる、バミリ、袖、ドン、ブカン、カンバン、タイバン、センザイ、プレゼン、シーメー、ミーノー、ケータリング、ハコバン、ゲネ、ランスルー、カメリハ、イントレ、けこみ、ケツ、ケツカッチン、つまむ、平台、ボーヤ、もぎり、見切れ、ノリ打ち、打ち逃げ、買取、自主、バトン、わらう、ドウセン、一本。
簡単に思いつく用語だけでも、結構な数があるものだ。


話を戻すが、 一歩外に出て人と関わったり、社会に出て仕事をしたりすれば、どこでも挨拶・礼儀が必要なのは当たり前の事なのだが、 芸事の世界では、“特に”挨拶・礼儀には厳しい世界なのだ。
各楽屋に挨拶に行くのは当たり前の事だし、打ち上げの席で お酒を左手でなんかお酌したら無礼者だ。
相手から挨拶をされる前に、こちらから挨拶をするのが礼儀だし、レストランで食事が早く来ても先に食べる事は無礼にあたる。
こういう事は見せかけの 言葉や態度だけでなく、その人から滲み出てくるものだから、本気で取り掛からないと実戦はできない。
楽屋、本番会場(コンサートホール・会館・ライブハウスなど)、舞台上、リハーサルスタジオ、タクシーの中、打ち上げ会場の居酒屋などなど、いつでも、どこでも、誰にでも、気を使わなければいけないし、これが当たり前の世界である。
演奏を上手くやるとか、ミスを起こさないとか、そんな事よりも大事で当然のごとくやらなければいけない事が、挨拶・礼儀だ。
自分が今まで知り合って来た、著名な方々や偉大な方々は、“全員”礼儀正しく、律儀で、謙虚な方々ばかりである。
そして常に人に気が効き、気さくな人柄だが、芸事になると目の色が変わり、自分のゾーンに入り、人を寄せ付けない“勝負の時間”となる部分まで、皆様全く同じである。

いつも心から感動してビックリする事は、自分が生まれる前からプロ奏者として舞台で活躍されている「大大大先輩・大ベテラン」の方々が、みんなの弁当の数を気にして下さり、タクシーの台数を計算して呼んで(配車して)下さり、お茶を入れて下さり、楽屋の雰囲気をいつも気にして笑わせて盛り上げて下さり、とにかく自分なんか頭が下がりっぱなしの連続だ。
本当に“凄い人”とは、テレビに出ている本数なんかではなくて、こういう事が普通に出来る“プロフェッショナル”の事を言うのだ。
また音楽家ばかりでは無く、テレビや映画などで“ヤクザ役”や“悪役”を演じる俳優さんは、みんな腰が低くて人が良い人ばかりだ。
カッコイイ主役を演じる人のほうが、礼儀が無くて無愛想だったりって事は、意外に多い事だ。
他にも今まで出会ってきた、板前さんや調理師、美容師、理容師、寿司職人、力士、刑事、教師、漁師、画家、彫刻家、格闘家、マジシャン、落語家、浪曲家、消防士、自衛隊員、舞踊家、ダンサー、歌手、カメラマンなどなど、どんなジャンルでも偉大な方々は、“業種は違えど同じ”なのだ。


まあ 仮に、この世界(芸能業界・音楽業界)に入って、芸や演奏の技術がいくら素晴らしくても、言葉使いを知らなければ誰からも可愛がられないだろう。
という事は、仕事も来ないという事だ。
周りから“認められる”のは大変な事だが、“評価を落とす”のは一瞬だ。
具体的に例を挙げると、現場に来ても誰にも挨拶をせずに「知らないうちに居る」人がいる。
ここで言う “現場”(ゲンバ)とは、コンサート会場やスタジオでのリハーサルなどの音楽活動現場の事で、 撮影、取材、打ち合わせ、打ち上げなども“現場”だ。
「あの人、もう来てたんだ」、「いつの間に来たんだろう」、「あれっ?さっきからいたっけ?」・・・。
これでは、現場のコミュニケーションが取れない。
現場に入ったら何よりもまず、出演者・スタッフ・関係者の皆様に“気持ちよく”挨拶をする事が大先決である。
それが、良い演奏をするという事と同じくらいに、コンサートの良し悪しを左右する事だ。


それから、これと似てる事だが、現場から黙って先に帰ってしまう人がいる。
呆れて言葉が出なくなるのだが、一緒に演奏した仲間や、先輩・後輩・スタッフ・関係者に、一言の挨拶もせずに帰る無礼者が実際にいるのだ。
急に居なくなるものだから、 所在が分からなくて結局みんなで心配して探す事になる。
いくら探しても居なくて、心配して電話をしてみたら、もう家に帰って“くつろいでた”なんて話まであるのだ。


●現場に入った時は、全員に笑顔で、元気良く挨拶をする。
●帰る時は、全員に笑顔で、元気良く挨拶をする。

こんな簡単な事!・・・のようだが、これを実戦する事は難しい。
なぜなら、いつも自分自身が「挨拶・礼儀」の事に気を配っていないと、なかなか実行出来る事ではないからだ。
「おはようございます。宜しくお願い致します!」、「お疲れ様でした。どうもありがとうございました!」
こんな事が出来ないなんて・・・。恥ずかしい事だが、実際に多数いる。

「笑顔で、元気良く」というのもポイントだ。
さわやかに、気持ちよく、元気良く、感謝の気持ちを込めて、ハキハキと、相手の目を見て。
「おはようございます!」
「宜しくお願い致します!」
「お疲れ様でした!」
「失礼致します!」
「どうも有難うございました!」
日本人らしく、日本の挨拶をすべきである。
日本人なんだから。


普段の活動において、講師として和太鼓を指導する仕事がある。
和太鼓会・チーム・グループへの指導や、短期講習会(ワークショップ)などがあるのだが、指導中に目に余る行動が多い。

よくある受講態度を紹介すると、

●貧乏揺すりをしながら話を聞く。
●腕を組む。
●足を組む。(椅子に座っている場合)
●頬づえをつく。
●足を投げ出し、手を後ろにつき、ふんぞり返る。(床にベタで座ってる場合)
●他人に指導している時に、自分には関係無いと思い話を聞かない。又は音を出す。又は近くの人と私語をする。
●会場に入ってきても誰にも挨拶しない。帰る時も同様。

●寝っころがって話を聞いた受講者や、当日貸し出した太鼓に寄りかかったり、太鼓に腰掛けた(座った)者までいる。
  これは、あまりにも酷い。和太鼓に限らず、講習会によっては「問答無用」で退場させられるだろう。


これらの行動は、芸事を学ぶ姿勢では無い。
「 物事を習得したい」という気持ちが感じられないし、指導を受ける姿勢では無い。
お稽古事は精神を集中させ、無心になって努力し、日々精進しなければならない。
一生懸命に取り組まなければ、意味が無いのだ。
いくら アメリカやヨーロッパの文化が日本に入ってきても、日本には日本の礼儀と風習と文化がある。
日本国で、日本人が、日本人に、日本の伝統楽器である和太鼓を学ぶにあたり、やってはいけない事である。
結婚式に出席する時は出席する時の、友達と遊ぶには遊ぶなりの、仕事をするにはするなりの・・・・、
そして!芸事の指導を受け、講習を受講するには受講する為の、「服装」、「心構え」、「気持ち」、「言葉」、「態度」がある。
すなわち、「挨拶」・「礼儀」・「作法」である。


本番を行うコンサート会場やイベント会場は、大道具や舞台設備などの機材でごった返しているから、事故を防ぐ為にも「声かけ」が重要だ。
例を挙げると、「ここに道具がありますので足元にご注意下さい」とか、「みなさん、これから大きな音を出します!」とか、とにかく「声かけ」が重要だ。

機材車から楽器を降ろし搬入する時も「すいません、後ろを通ります!」と声をかけたり、手渡しする時は「はい!手を離します」。
機材を受け取るときは「はい!受け取りました」。
これで相手が安心して荷物から手を離し、安全に 荷物を渡す(受け取る)事ができる。
「声かけ」をやらずにタイミングが合わず、足の上に何十キロもの機材を落とせば、簡単に足が潰れてしまうから、プロのスタッフは職種を問わず、必ずと言っていいほど「声かけ」を行っている。
これは本当に重要な事で、 現場をナメてると一瞬で大怪我する事になるわけで、念には念を入れ過ぎるくらいでも足りないくらいだ。

こういう事を「神経質」だとか「細かい」とか言う人がいるのだが、一瞬のミスで重大な事故が起きてしまうのが事故だ。
その事故を未然に防ぐ努力をする事は重要であり、自分達で防衛していくのは当然の事である。
999回気を付けて本番をこなしていても、1000回目で油断して骨折しては意味が無い。
一瞬の不注意により、一言の声が無かった事により、コンサートが中止となる可能性まである。
それに万が一、他人に怪我をさせたらそれこそ大変な事だ。
体も楽器も安全が一番だ。

その為には「声かけ」を実施し、安全確認を怠らない事だ。
これはこれまでの経験上、現場で自然に学んで来た事であり、定着している事でもある。
例えば、 楽器類を搬出し、機材車に全て積み込んだ後、一番最後に 「はい、閉めます!」の言葉で周囲に注意を促し、確認してから機材車のハッチ(ドア)を閉じるようにと、自分のスタッフやローディーに も指導している。
これは、 もし誰かが車のハッチ付近に手をかけていれば、一瞬にして惨事が起きる可能性があるからだ。
いきなりドアを閉めれば、急に人が横切るかもしれないし、その瞬間に何かをしようと急に誰かが手を出すかもしれない。
事故が起きれば、いくら良いコンサートだったとしても一番最後の最後で一瞬にして“失敗”に終わってしまうのだから。
とにかく「声かけ」は重要であり、現場を安全に円滑に進める為には絶対に必要な事だ。


そして関係者の皆様に、「お疲れ様でした! どうもありがとうございました!」 の挨拶で、一日が終わる。

そう・・・、挨拶に始まり、挨拶に終るのである。


御木裕樹(和太鼓奏者)


ページのトップへ戻る

和太鼓奏者・御木裕樹 コラム メニュー

  -其の壱- 和太鼓とは・・・
  -其の弐- 楽器の取り扱い
  -其の参- 奏法や楽器の名称
  -其の四- 和太鼓との出会い
  
-其の伍- 礼儀・挨拶・声かけ
  -其の六- 太鼓は音楽・芸術・唄
  -其の七- プロになりたい人へ・・・
  -其の八- 職業・仕事としての和太鼓奏者
  -其の九- 伝統を継承し伝統を創造する

  -其の拾- 御木裕樹 和太鼓フルセット

御木裕樹オフィシャルブログはこちら

和太鼓奏者・御木裕樹  オフィシャルブログ

御木裕樹 「ライブDVD」 サンプル動画


サンプル映像はこちら!(wmv動画)


リンク用 バナー
和太鼓奏者・御木 裕樹(みき ひろき) Official WebSite  リンク用 バナー
和太鼓奏者・御木 裕樹(みき ひろき) Official WebSite
http://www.hirokimiki.com