和太鼓奏者・御木裕樹 コラム

-其の拾- 御木裕樹 和太鼓フルセット

日頃の音楽活動・コンサート活動にて使用している楽器、通称:「和太鼓フルセット」について紹介する。
楽器の選定・仕様・コンディションは、演奏の良し悪しを大きく左右するほど重要である。
演奏家にとって楽器とは“自分の音”を出すものであり、自分の唄をうたう(自分の演奏をする)為の大切なものである。
歌手ならばこれは自分の「声」にあたる部分である。

使用している 楽器(太鼓)、台、御木裕樹MODELバチ、御木裕樹MODELチャッパなどは、全て東京・浅草の老舗太鼓店 「(株)宮本卯之助商店」の特注品である。
一つの楽器や台を作るのにも、何度も何度もお店や工場に足を運んで打合せを重ね、胴・革・形状・音など自分の要望を伝え、細かくこだわり、製作して頂いている御木裕樹仕様のオリジナル品である。
楽器の見栄えも重要であり、ロープを使用する太鼓であればロープの材質・色・太さにもこだわりがあるし、胴の色や打面へのペイントなど、装飾的な事も細かく要望を伝え、造って頂いている。
実際に太鼓を造っている工場にて、現場の職人や親方との打合せを繰り返す事により、より理想的な楽器が完成する事になる。
また、一度造ったら終わりではなく、日頃の本番で使用していれば改良点なども出てくるので、楽器の微調整は頻繁に行っている。
自分が監修した5寸チャッパを一つ開発・製作する時も、完成しては試しに演奏してみて変更点が出て微調整をお願いして、また完成してまた試奏して微調整して、この繰り返しで長い月日をかけて製作しており、気が付けば試作品のチャッパが数十枚となった。
完成した「和太鼓 御木裕樹MODEL」の チャッパは、材質・形状・使いやすさ・音色・耐久性など、とことんこだわり作った、チャッパ奏者の為のチャッパであり、ソロ演奏する為のチャッパとしても最高 に適している。
最初に5寸チャッパを完成させて (2003年・発売開始)、後に6寸チャッパ、7寸チャッパも製作し、販売している。(2005年・発売開始)
尚、バチ(数種類)とチャッパ(5寸・6寸・7寸)は 「御木裕樹MODEL」として一般発売しており、ライブ会場での物販販売、WEB(御木裕樹公式HP)での通信販売(オンラインショッピング)、また「(株)宮本卯之助商店」店頭にて購入可能である。
この バチ、チャッパなどは、自分が日頃の演奏活動にて実際に使用しているものと全く同型であり、発売以後、全国のプロ・アマ問わず、多数のプレイヤーに愛用して頂いており、嬉しい限りである。


太鼓は一台ごとに全て音が違う。
人間がみんな顔や性格が違い個性的なのと同様に、たとえ同じ種類・大きさの太鼓であっても、一つ一つ・一台一台全て音が違う。
樹木や牛の革を使用している「生楽器」なので、当然と言えば当然の事だ。樹木全て違いがあり、全く同じ牛もいないのだから。
「実際に太鼓を造ってみなければ、どんな音になるのか分からない」という部分がある。
胴と革の相性もあるし、胴の形状、厚さ、革の厚さや種類により、音が全然変わる。
「ドンッ!」としか音が出ないと思ったら大間違いで、仮に数十個の同じ大きさの同種・同型の太鼓を目を閉じて順番に叩いても、どの太鼓なのか完全に判別できる。
叩いた時のタッチ(感触)が違うし、音の響き方や音程、音の伸び方や倍音の出かたなど、全てが違う。
自分の楽器なら、その判別はなおさら簡単に分かる。
「今日は湿気があるな」とか、「乾燥してきたな」とか、おおよその湿度まで分かる。
それほどデリケートな楽器であるし、敏感な楽器である。
人間も体調があるように楽器にもその日の調子があるのだ。
その変化を把握してコンディションを整え、管理してあげるのはとても重要な仕事であり、楽しい事でもある。
よく、「愛犬」とか「愛車」とか表現するが、正に自分の“愛太鼓”そのものである。


【和太鼓 御木裕樹MODEL 和太鼓フルセット】仕様・詳細(太鼓製造メーカー:(株)宮本卯之助商店 特注品)

盆太鼓(本欅・長胴太鼓)×2台、桶胴太鼓(桶締太鼓)×2台、ちび宮(本欅・長胴太鼓)、締太鼓×2台、
ちび桶(桶胴太鼓・馬皮)、団扇太鼓セット(×9枚)、大太鼓(会場やプランにより2.5尺〜3.5尺、長胴太鼓)、
シンバル(数枚)+タンバリン、他鳴り物。
現場により壺(ツボ)、ジャンベ、かつぎ桶太鼓、カホン、ドラ、木魚など、様々な楽器を使用する。
他、超強力な秘密兵器の楽器もあり、現場と楽曲によって使い分けている。
バチもスーツケース一台分の種類があり、楽曲や出したい音色により使い分けている。竹バチもある。
他、予備バチ、ワイヤレスマイクベッドセット、タオル、水、曲順表、チャッパ、当り鉦、そして
鳴り物(鈴・拍子木・水笛など)が、いつでもすぐに手に取れるようにセッティングされている。


御木裕樹 和太鼓フルセット(太鼓18台)+PA(音響)のマイクスタンドなどを立てると、12尺(2間)×12尺(2間)という広いスペースを必要とする。
また、和太鼓は楽器の音程などのコンディションが気候・湿度などの環境により刻々と変化する、大変にデリケートな楽器だ。コンサートの最初と最後で音程が違う(変わる)事は少なくない。
照明が当たって温まれば音程が上がり、湿気が多ければ音程は下がる。団扇太鼓などは一枚皮なので、その影響を一番受けると言える。団扇太鼓を一発叩けば、だいたいの湿度がわかる。
他の楽器と共演する場合、和太鼓のチューニング次第で不協和音を出す事にもなるので、常に微妙なチューニングに常に気を使っている。

また、全くのソロ演奏なのか、ロックバンドとのセッションなのか、民族楽器との共演なのか、レコーディングなのか、仕事内容も様々だ。
公演により必要とされる使用楽器が異なる為、その都度必要な楽器を用意してチューニングも変えてセットしている。

現在は、この和太鼓フルセットがそっくりそのまま、もう1セットあり、計2セットで日頃の公演活動やツアーを回転させている。
色も形も全て同じ“造り”なので、どちらのセットなのかは、客席から見た目で判断するのは不可能なレベルだ。
例えば、Aセットを次の公演場所に輸送したり、地方や海外からまだ戻ってきてなくても、自分の体があれば東京でBセットで公演する事ができる。
これは、大変に重要な事である。
なぜなら和太鼓の場合、楽器が大きい、量が多い、重いと三拍子揃っているので、楽器運搬・運送も日程を要するからである。
東京公演であればさほど問題は無いが、地方で公演するとなると、前後の日程は楽器運搬・トランポ(トランスポート)が必要になる。
三味線や尺八のように手持ち(手荷物)で行動出来れば一番良いのだが、自分の場合はそうもいかない。
体が空いていても楽器が無ければ仕事にならない訳で、“最低”2セットで活動する事は演奏家として理想的な方法である。

海外公演の時などは、大活躍する。
海外への楽器輸送・楽器運搬は、様々な問題がある。
楽器を貨物便で別輸送する場合、出発の何日も前に楽器を送らなければいけないといった事もあるし、自分の体は帰国したが、楽器は一週間後に帰って来るなんて事もある。
現地での税関通過にも数日要する国もあるし、貨物の予約を予め完全にしていても、当日になって「乗せられない!」なんて簡単に言われるし、急遽その国の物資を輸送する事にでもなれば、楽器は運ばせてもらえない。仮に前後1週間楽器が拘束されれば、この間は仕事が出来なくなってしまう。

和太鼓奏者は職業であり生活もあるので、食べる為に働かなくてはいけない(笑)
この為、海外公演にはBセットを使用してAセットは絶対に国内に残るようにしてある。
これなら、海外行きの楽器の発送が早まったとしても、帰りの輸送が遅れたとしても、万が一楽器を壊されたとしても、国内での演奏活動に支障は無い。(もちろん精神的ダメージは大きいから支障はあるが。)

飛行機会社に楽器を預ければ、楽器を投げるし、ちょっとした高さから落とすし、逆さまにするし、とにかく扱いが乱暴・乱雑である。これまでに何度、ケースを壊された事か。
通称「フライトケース」と呼ばれている、ジュラルミンや金属で出来たハードケースですら、変形したり、破損したりしているほどだ。
もしソフトケースなんかで運搬したら一発で壊されるし、桶胴なんかはバラバラになってしまうだろう。


それから、実は自分の和太鼓フルセットは、様々な部分に秘密の仕掛けがしてある。
二重三重の安全も施してあるし、これまでの経験と知識が結集されているとも言える。
実際のコンサート活動では、運搬・搬入・チューニング・セッティング・リハーサル・本番・撤収・梱包・搬出・積込みと、かなりハードな使用の仕方をする為、それなりの耐久性と柔軟性が楽器にも必要になる。
肝心な“音”や“音色”はもちろんだが、使いやすさ、耐久性、そして自分の演奏スタイルの為の楽器は特注品も特注品であり、その人に合わせて作ったメガネや入れ歯と同様に完全にフィットする体の一部みたいなものだ。

アマチュアの和太鼓チームを指導していて、よくある事なのだが、セットしてある太鼓の高さと角度に体(奏法・演奏)を合わせてしまっているパターンが本当に多い。
車を運転する時に、シートの位置やミラーの角度を自分に合わせて調整する事と同様に、自分の身長や演奏スタイルに合わせて太鼓台の高さと角度も設定する必要がある。
もちろん、チーム所有の太鼓だったりすると自分専用のセッティングにする事は出来ないかもしれない。
だが、身長180cmの人と、150cmの人が、同じ高さと角度の太鼓の使用しているというのは、どう考えても無理が生じるのだ。
チーム所有の太鼓であっても例えば予め、低め・普通・高めの3種類の台を数台ずつ用意するとか、会員(打ち手)の身長と人数は判明しているわけだから、それに合わせて低い台、高い台をある程度は用意しておくとか、色々と考えられる。
太鼓が低くて無理に腰を落として演奏したり、逆に高くて無理に肘が横に張ったり上がったりする事は、良い演奏が出来ないだけでなく変な癖がつく恐れもあるし、怪我をしたり体を痛めてしまう可能性まである。
太鼓を打つ為に手に持つバチも全く同様で、自分に合った長さ、太さを使用するのが本来は理想的だ。



自分にとっては、バチも、太鼓も、太鼓の台も、全て大切な楽器であり、大切な道具であり、御神体であり、体の一部なので、念入りに調整して感謝の心と敬意を持ち、愛情を持って接している。
その一つ一つの太鼓が合わさり、セット群となっているのが、御木裕樹 和太鼓フルセットである。

「今日も宜しくお願い致します。どうか最後まで無事に演奏させて下さい。素晴らしい音で鳴って下さい。」
「本日はどうも有難うございました。心から感謝致します。今後とも宜しくお願い致します。」
これは自分の楽器との会話で、演奏前・演奏後に自然に習慣となっている、“儀式”である。

これらの想い有るからこそ、完全に自分のゾーンに入り 「無心」 になり集中できるのである。


御木裕樹(和太鼓奏者)


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