和太鼓奏者・御木裕樹 コラム

-其の七- プロになりたい人へ・・・

和太鼓のプロになりたい。
素晴らしい事である。
心から応援したい。


「プロになる為に、ローディー(付人・バンドボーイ・ボーヤ)として勉強したい」といった問合せも、日頃から結構ある。
ところがだ・・・・・。


「入門したら、いつプロになれますか?」
「プロになったらいくら稼げますか?」
「修行はどのくらいの日数がかかりますか?」
「食べていけるでしょうか?」
「プロになれるでしょうか?」


といった内容が多い。
ハッキリ言わせてもらうが、全て「こっちが聞きたい」事だ。
お金の事を考えるなら、会社員になったほうがいいだろう。
プロの 音楽家、演奏家(和太鼓奏者・太鼓打ち・太鼓叩き)には、年末年始(正月)、ゴールデンウィーク、お盆など、一般的な休日は一切関係ないし、固定給も保険もボーナスも有給も退職金も 無い。
スケジュールが合わなければ、親族の冠婚葬祭にも出席できないし、「親の死に目にも会えないと思え。」というのは、この業界では常識の事である。
だが、音楽家にはリストラはない。(所属事務所を解雇されるという事はあるだろうが・・・。)


プロになれる保障も無く、いくら稼げるかも分からず、実際に食べていけるようになるのかも分からず、親の死に目にも会えないというこの世界、この業界に、自分の人生の全てを賭けて飛び込む勇気と根性が無くてはならない。
もし、 心から太鼓が大好きで、「この道しかない!」という信念があるのであれば、誰が反対したところでそれは無駄であろう。
本当に本気で“やる気”があるのであれば、この世界に飛び込んでみるのもいいかもしれない。
ただ、自らの人生を賭けて挑戦するわけだから、これには勇気が必要だ。
逆に、人にとやかく言われて迷ってしまうくらいならやめたほうがいい。
考え方がコロコロと変わってしまうようであれば、飛び込んだとしても長くは続かないだろう。
大切なのは信念と情熱、太鼓が好きという気持ちと太鼓に対する熱意だ。


あげくの果てにだ・・・

「アルバイトをしなければいけないのでしょうか?」
「バイトはいつまでやればいいのでしょうか?」
「東京の家賃の相場はどのくらいでしょうか?」
「家から遠いので、私の近所で良い先生は知りませんか?」

って・・・、おいおい・・・・。
無料相談所じゃないんだから。
まぁ、プロになる以前に、こういう考え方の人は入門すら難しい。
なぜなら、礼儀・作法・挨拶こそが芸の原点であるし、やる気、気合、根性、努力が最終的には物を言うからだ。
分かり易く言えば、目つき、態度、言葉使いなどを改め、心身共に健康な状態で、日々自分の芸道の真髄を極めるべく精進しなければならない。
もちろんプロとしての技術、集中力、センス、そして才能が必要となるのは言うまでもないが、大事なのはそれ以前に礼儀・挨拶が常識的にしっかり出来る人間だ。
どんな時でも 律儀・謙虚で、決しておごらず(驕らず)に、周りの人から認められ可愛がられれば道は開けてくるだろう。
それは私生活でも仕事現場でもいつでもどこでも実行する事が大切だし、見ている人はいつでも見ているから、常に自分に正直に修行する事が重要だ。
仮にいくら腕前があったとしても、依頼者からすれば“礼儀も知らない失礼なヤツ”に仕事を頼みたくはない。
先輩や仲間に可愛がられ、認めてもらって、初めて道が開けるという事だ。
人間として周囲に気配りが出来ない人に、演奏中に周囲に気配りしろというのは無理な話である。
芸事はいつでも修行、いつまでも修行であるが、人間と芸を磨く事は同時進行で行わなくてはならない。
太鼓が上手くなる為に一番必要な事は、「挨拶」である。


自分が好きな事に熱中した時の、人間のパワーは凄まじいものがある。
どんな事を言われても、どんな事があっても、「自分の夢を必ず実現させてやる!」という“熱い想い”が、不可能をも可能にしてしまう。
その第一歩を踏み出すか出さないかは本人が決断する問題だが、いずれにしても 人生は自分で切り開いていくものだ。
そして人間は、凄いパワーを秘めているのだ。
考え方次第で物の見方が180°変わるし、 死ぬ気になれば何でも出来る。
「バイトしながら適当に修行して、早くプロになれればいいなぁ・・・」なんて事が通用するほど、甘い世界では無い。
バイトしながら(働きながら)、週2回太鼓を叩く(稽古・練習する)アマチュアに対して、プロは四六時中、毎日毎日、自分の楽器に触れているし、普段の生活や人生のほとんどの時間を太鼓に注ぎ込んでいる事を忘れてはいけない。
プロになりたいアマチュアがたまにしか太鼓を叩かないで、プロは毎日太鼓を叩いているというのは、どう計算してもプロには追いつけない。
プロはますます技術を向上し続けている訳で、日々悩み、研究し、改良し、本番舞台で実戦している。
プロになる為には、最低でもプロと同じかプロ以上に太鼓を叩く時間と修行の時間を作らなければ、いつまで経ってもプロにはなれないと言える。
どんなに天性があり、素質があり、素晴らしい才能を持っている人間でも、努力と芸を磨く事をしなければ、その才能を発揮できない。
どちらにしても、 お金、時間、情熱の全てを太鼓に賭ける決心と信念が無いと、プロとして食べてはいけないだろう。


自分は、ゴルフが大好きなので趣味で楽しんでいるが、これと全く同じ事が言える。
アマチュアゴルファーは、月1回や数ヶ月に1回ゴルフコースに行き、お金を払ってプレイを楽しむ。
仮に毎週土・日に必ずゴルフコースに行ったとしても、週に2回(2日)のラウンドである。
これに対してプロゴルファーは、移動日などを除き、ほぼ毎日ゴルフをしているのだ。
さらに世界のトッププロとなっても、ティーチングプロと呼ばれる指導者に日々指導を受け、指摘され修正し続けている。
プロになる事が到達点なのではなく、プロデビューした時が本当のスタートであり、日々技術も精神面も進化し続けているのだ。
自分自身でもスイングを毎日チェックし、試合後にも毎日必ず練習する事はもちろん、ホテルの部屋でもパターの練習をするほどなのだ。
月一ゴルファー(毎月1回ペースでゴルフをラウンドするアマチュア)が、仮にそのプロと同じ“生まれつきの才能”を持っていたとしても、追いつける可能性は無い。

ゴルフがもっともっと上達したいと考えるアマチュアは、お金を払って“たまに”ゴルフをプレイ。
対して、ゴルフでお金を稼いで生活しているプロは、“毎日”ゴルフをプレイ。
この練習量のアマチュアに、このプロを超えるチャンスは全く無い。
言い換えれば、こんな練習量ではプロになれるチャンスさえ無いのだ。
“プロ”とは、 食事、睡眠、風呂、トイレ、移動など、必要最低限の行動を除いた、ほとんどの時間と労力を自分の仕事に費やしているのだ。
そして、それで生計を立てているのが“プロ”だ。
アルバイトをしながらプロの舞台に立ったからと言ってプロでは無い。
もちろんプロと同じ意識である事には違いないかもしれないが、生計を立ててこそ、それで食ってこそ“プロ”だ。
居酒屋でバイトしながら週に1回だけお客様の髪を切る美容師と、毎日毎日朝から晩までお客様の髪を切り続けている美容師と・・・。
技術、経験、プロ根性・・・。考えてみれば結果は明らかである。


もう一度言うが、太鼓なら太鼓。ゴルフならゴルフ。
プロはそれが仕事なので、毎日毎日練習して悩み、苦しみ、人生の時間、お金、労力、そして情熱の全てを注ぎ込んでいる。
アマチュアはお金を使って、お金を払って、趣味でその物を楽しんでいる。
ビギナーやアマチュアは、たまに。
技術のあるプロは毎日。
これでは、ますます技術に差が出るに決まっている。
プロになりたいと考える人は、この部分を真剣に考えて行動しなければいけないだろう。
ズバリ言えば、毎日毎日寝る時間も惜しんで芸の事に没頭するくらい太鼓が好きで、それを実戦出来る人でないと厳しいだろう。
それでも追いつくかどうかという世界である。


プロゴルファーの場合、プロになる為にはプロの試験に合格してプロの資格を得なければならない。
条件を満たして晴れてプロゴルファーになったとしても、ツアープロとして食べていける人はごく少数であり、道が狭い。
結局、トーナメントの決勝ラウンド(男子プロでは第3日目(土)、第4日目(日))に進めなければ、賞金は0円だ。プロになって プロの試合に出場したとしても、木曜・金曜2日間の予選ラウンドで落ちてしまえば獲得賞金は0円なのである。
滞在費や交通費などの諸経費は自腹だから、トーナメント3日目の決勝ラウンドに進めずに、いつも予選落ちしていれば、いつも赤字の連続という事になる。
プロゴルファーでも所得がほとんど無いプロも多数いるわけで、“プロになる事”と、“プロとして食う事”は全く別の世界である。


ちなみに、プロ野球選手は最低の契約金があるから、試合に出なくても所得はある。
でもプロ野球には解雇がある。
プロゴルファーには解雇は無く、一生プロと名乗りたければそれも可能で「生涯獲得賞金 0円」でもプロはプロだ。


プロ和太鼓奏者の場合、プロになる為には資格も試験も必要無い。
「プロ和太鼓奏者 学校」なるものも無い。
今日から名刺でも作ってプロを名乗れば、だれでも“プロ和太鼓奏者”になれる。
なれないと思えば一生なれない。
あとは、個人の努力とセンスと才能と技術と人間性次第である。

ただし、“プロになる事”と、“プロとして食う事”は全く別である。
自称プロでもプロはプロかもしれないが、しかしそれでは実際に和太鼓で食べていく事は困難だ。
プロゴルファーは試合の結果による賞金で生計を立てるが、プロ和太鼓奏者は「実演家」として演奏出演時に発生する出演料というギャランティー(報酬)で生計を立てている。
現在、全国にアマチュア太鼓チームが15.000団体以上。
自称プロも含めて膨大な数の和太鼓奏者がいるが、実際に和太鼓演奏で食べているのはごく少数なのが現状だ。
日本人が日本の伝統的な打楽器奏者(和太鼓奏者)として生計を立てる人が大勢いる時代になってほしいと、心から願っている。
ますますプロ和太鼓奏者が増えてほしい。
自分もプロ志望者を心から歓迎したいし、応援している。


また、ゴルフのプロには試合に出場して賞金を稼ぐ“ツアープロ”と、日々指導する事が仕事の“レッスンプロ”というプロがいる。
これは和太鼓にも同じような光景がある。
実際にプロ和太鼓奏者として出演料で生計を立てているのではなく、日々生徒に指導する事による指導料で食べてる「和太鼓レッスンプロ」である。
しかし、ここで言う“プロ奏者”とはあくまでも演奏家の事である。
基本的に演奏活動、音楽活動による報酬で生計を立てるプロ和太鼓奏者、すなわち和太鼓の“ツアープロ”の事だ。

実は自分はマジック(手品・奇術)が大好きで、趣味で15歳から カードマジック・コインマジックなどの“クロースアップ・マジック”(テーブルマジックとも呼ばれ、少人数のお客様に至近距離で演じるマジックのジャンル)を始めた。
ちなみに大勢のお客様に舞台上のマジシャンが離れた距離で演じる形態を“ステージマジック”という。
大掛かりなセットなどを使って演じる“イリュージョン”も、“ステージマジック”である。

15〜16歳の頃は、まだ和太鼓だけでは食えなかったので、アルバイトをしていたのだが、趣味として始めた カードマジックなどを色々な所で披露した時に頂く“ご祝儀”があり、これが月々のバイトの給料を軽く超えていた。
正に、「芸は身を助ける」とはこの事であり、芸事に注ぎ込んだお金、時間、労力は、ちゃんと自分に跳ね返って来るのだ。
現在でも日頃の 打上げ、宴会、パーティーなどでマジックを演じる事が多く、毎回“お約束”の恒例行事となっている現場まである。


また驚く事に、「マジシャン」としてイベントやパーティーなどでマジックを披露してほしいと出演依頼されて、出演料を頂いて“マジシャン”として仕事をした事が何度かある。(笑)
プロ マジシャンの世界も、プロテストや資格などは無いのだが、いくらギャラを頂いて舞台に立ったからといっても自分が“プロマジシャン”を名乗るなんてとんでも無い話である。(もちろん人前で演じる以上、“プロ意識”で全力で演じるが。)
名刺を作ってホームページでも作れば、誰でも今日からプロマジシャンやプロ和太鼓奏者になれるわけだが、無論“自称”だ。
それにだ。
色々な所でマジックを演じていたら、驚く事に「マジックを教えてほしい」と、お願いされた事がある。
アマチュアマジシャンの自分にレッスン料を支払って、マジックを学びたいと言うのだ。
これはさすがに事情を説明し、丁重にお断りさせて頂いた。
ただ、個人的に無料で指導したり、手品に関する色々な話をしたり、マジックの参考書を紹介したり、マジックショップを紹介したりして、その方がマジックを始められるように力添えをさせて頂いた。
確かにマジックの事を何も知らない人に、カードマジックなどを教える事はできる。
技法やテクニックも沢山あるし、色々と指導する事もできる。
自分がそれなりに“なりきって”マジックの“レッスンプロ”になろうとすれば、それも可能なわけだ。
しかし本当の本物のプロマジシャンをナメてはいけない。
どんな世界でもそうだと思うが、その道のプロは並大抵の努力と練習量ではないし、何よりもこれで食ってるという気合や、センス、才能、技術が違う。
自分がプロマジシャンを語る事やマジックの指導者となる(マジックのレッスンプロになりきる)事など、当然ながら考えもしなかった。
ジャンルは違えど同じプロとして、それがどれだけ厳しい道であり無礼な事なのかは、分かっているつもりである。

もし本当に和太鼓が大好きで、この世界に飛び込んでみたいのなら、躊躇せずに試してみればいい。
趣味・習い事である「和太鼓教室」の生徒募集とは別に、プロを目指す若手のローディーや弟子(アシスタントスタッフ)を随時募集しているので、興味がある方はぜひ事務所まで問合せをしてみてほしい。
「自分の好きな事を職業にする」事は、ごく少数の限られた人だけに許される事であり大変に難しいが、もしかしたらあなた自身が、その“ごく限られた人”なのかもしれない。
どんなプロでも、最初は必ずアマチュアであるし、右も左も分からない同じ人間だ。
そこには厳しい世界が待っているだろうが、「自分の好きな事を職業とする」、「自分の夢を現実にする」素晴らしい可能性がある。
そして、今までに見た事も、聞いたことも、味わった事もない特別な世界があなたを待っているはずだ。


御木裕樹(和太鼓奏者)


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和太鼓奏者・御木裕樹 コラム メニュー

  -其の壱- 和太鼓とは・・・
  -其の弐- 楽器の取り扱い
  -其の参- 奏法や楽器の名称
  -其の四- 和太鼓との出会い
  -其の伍- 礼儀・挨拶・声かけ
  -其の六- 太鼓は音楽・芸術・唄
  
-其の七- プロになりたい人へ・・・
  -其の八- 職業・仕事としての和太鼓奏者
  -其の九- 伝統を継承し伝統を創造する

  -其の拾- 御木裕樹 和太鼓フルセット

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